当たり前の先へ


~経営力向上を目指して~
前回は、「当たり前のレベルを上げることが企業の成長につながる」というテーマのもと、「雨が降ったら傘をさす」という内容のコラムを掲載した。
今回は、「当たり前の先」を考えることで、企業経営の基盤づくりに取り組んでいる事例を紹介しながら、さらに検証していきたい。
理念を軸に、地域の可能性を切り拓く
沖縄本島北部の「やんばる」にあるOSC(おきなわ さかな カンパニー)は、以下の3つの経営理念・コアコンセプトを軸に、沖縄ならではの海洋資源を活かした事業を展開している。
沖縄の海の魅力を世界中へ
沖縄経済に好循環を生む
人々の生活に潤いをもたらす
同社の大きなミッションは、地元の漁師である海人(うみんちゅ)と密接に連携し、海洋生物の収集・輸送から飼育展示までをワンストップで提供するという強みを活かして、地域経済の好循環を生み出すことである。
一企業の取り組みとしては、非常に壮大な理念である。
しかし、素晴らしい理念を掲げるだけで、経営がうまくいくわけではない。
同社も、経営を軌道に乗せるべく努力を重ねる一方、「やんばる」という地域特性もあり、人材確保に苦慮していた。理念の実現に向けて、経営陣の強い想いとリーダーシップのもと、いかに人材を育て、組織としての力を高めていくかが大きな課題であった。
そこで、同社は理念の実現に必要な取り組みを5つの領域に整理し、知識教育・技術教育・実践指導を徹底した。その結果、人材の定着や能力向上が徐々に進み、経営力の向上にもつながってきた。
具体的に見ていこう。
① 海人との連携と収益の安定化
同社は、「沖縄美ら海水族館」の展示生物の安定供給と魅力向上、さらには地元の海人の収益安定化を目指して設立された経緯がある。
取り扱う魚は100%沖縄県産にこだわり、トレーサビリティ(生産・流通履歴)を確立している。こうした取り組みを通じて、地元の漁業協同組合との強固な協力関係を築いている。
単に海洋生物を仕入れて販売するのではない。生産者との信頼関係を大切にし、地域の漁業と自社の事業がともに成長する仕組みをつくろうとしているのである。
② 水産資源の付加価値向上と環境再生
市場に出回りにくい「未利用魚」の付加価値向上にも率先して取り組んでいる。
さらに、サンゴの養殖による漁場再生にも着手し、沖縄本島北部の「やんばる」地域における水産業の持続可能性と地域振興に貢献しようとしている。
これらは、すぐに大きな収益を生み出すことが容易ではない取り組みである。それでも、地域の水産資源を守り、その価値を高め、将来につなげていくために地道な努力を重ねている。
目先の利益だけでなく、地域の将来を見据えて行動すること。ここにも、同社の理念が表れている。
③ サステナブルな循環型社会への寄与
同社では、社内の意識改革と対外的な発信の一環として、使用済み漁網をリサイクルしてつくられた「DAIWA UNIFORM」をスタッフのユニフォームに採用している。
海人が大切に使ってきた道具を再利用するというコンセプトに共感したものであり、過酷な現場を支える機能性とともに、着用すること自体が「海の資源循環」を周囲に伝えるきっかけとなっている。
理念は、掲げるだけでは社員の行動につながらない。目に見える形にし、日々の仕事の中で実践することが重要である。
こうした取り組みは、会社が大切にする価値観を具体的な行動として示すものであり、理念を組織内外に伝える役割も果たしている。
④ 体験型観光と教育による海洋資源の魅力発信
「沖縄の海の魅力を世界中へ」という理念を実現するため、同社は多彩なマリンアクティビティや観光事業を展開している。
具体的には、次のような取り組みがある。
やんばるタッチプール&飼育体験
マンタやサメの飼育観察体験ツアー
やんばる東海岸定置網漁体験
沖縄の海の魅力は、写真や映像を見るだけでは伝えきれない。実際に触れ、観察し、体験することで、その魅力をより深く理解することができる。
こうした体験を事業として提供することは、沖縄の海の魅力を発信すると同時に、観光による収益化を図る取り組みでもある。
理念を実現するための活動を、持続可能な事業として成立させる。ここにも、経営として考えるべき重要な視点がある。
⑤ 空間演出とビジネス展開による経営基盤の強化
同社は、商業施設やイベント向けに、カスタマイズ水槽の設置、イベント企画、季節ごとの装飾演出なども提供している。
過去には、北海道の水族館における沖縄ゾーンのデザインを手掛けるなど、沖縄の海の魅力を県外へ届ける活動も行ってきた。
こうした事業展開は、海洋生物の取り扱いに関する知識や技術を活かしながら、新たな顧客や市場との接点を生み出すものである。
一つの事業だけに依存するのではなく、自社の強みを活かして事業領域を広げることは、収益機会の拡大と経営基盤の強化につながる。
理念を掲げるだけでなく、組織の力に変える
ここまで、OSCの5つの取り組みを見てきた。
これらに共通するのは、経営理念を単なるスローガンに終わらせず、具体的な事業や社員の行動に結びつけようとしていることである。
過疎化が進む「やんばる」という地域において、人材確保が容易でないことは事実である。しかし、同社は、それをできない理由にするのではなく、理念を実現するために必要な知識や技術を社員に伝え、実践指導を重ねることで、組織としての力を高めてきた。
経営理念を掲げることと、理念に基づいて経営することは違う。
理念を実現するためには、社員一人ひとりが自分の仕事の意味を理解し、自ら考え、行動できるようになることが重要である。そのためには、経営者が理念を語るだけでなく、教育や指導を通じて、理念を具体的な仕事の進め方に落とし込まなければならない。
「経営とは凡人に非凡の仕事をさせることである」という言葉がある。
特別な能力を持った人材だけに頼るのではなく、一人ひとりの能力を引き出し、組織全体の力に変えていく。日々の仕事における当たり前の水準を引き上げ、理念の実現に向けて挑戦を続ける。そこに、経営力向上の本質があるのではないだろうか。
今一度、「雨が降ったら傘をさす」に立ち返る
ここで、前回の「雨が降ったら傘をさす」という話に戻ってみよう。
貴社において、今、どのような「雨」が降っているだろうか。そして、その雨に対して、どのような「傘」をさすべきなのだろうか。
その判断の拠り所となるのが、経営理念である。
経営理念は、企業のウェブサイトやパンフレットを飾るための美辞麗句ではない。それは、暗闇や暴風雨の中でも進むべき方向を見失わないための「北極星」であり、経営判断を支える羅針盤である。
自社を取り巻く外部環境の厳しさに直面し、次に打つべき手が見えなくなったときこそ、経営者は創業の原点や自社の理念に立ち返る必要がある。
理念に照らし合わせることで、次のような本質的な問いが生まれる。
我が社は、誰の、どのような困りごとを解決するために存在しているのか。
現在の環境変化は、理念をより高い次元で実現するために、我が社にどのような進化を求めているのか。
社内で「これが我が社の強みだ」「このやり方が正しい」と信じている仕事の進め方は、本当に今のお客様のニーズに適合しているだろうか。
大切なのは、理念を理由に変化を拒むことではない。理念を軸に据えながら、環境の変化に応じて、自社のやり方を見直し、進化させていくことである。
理念というフィルターを通して環境を捉え直せば、市場の変化は単なる「ピンチ」ではなく、自社の存在意義を改めて示し、理念を実現するための機会にもなり得る。
打つべき手を考える際には、まず自社の理念に立ち返る。そして、理念を実現するために何を変え、何を徹底すべきかを考えるのである。
真理をベースに、当たり前の先へ
経営とは、一発逆転の奇策や、他者を欺くような裏技の連続ではない。
時代の変化という自然の摂理に逆らうのではなく、その変化を素直に、謙虚に受け入れること。そして、自社の理念という揺るぎない軸をしっかりと持ち、やるべきことを淡々と、しかし誰よりも、どこよりも徹底的にやり抜くこと。
これこそが、長期にわたって持続的に成長する企業に求められる「経営の真理」ではないだろうか。
「景気が悪い」「政治が悪い」「業界の先行きが暗い」と、外部環境を嘆いているだけでは、経営は前に進まない。
雨が降ること自体は、私たちにはコントロールできない。しかし、雨にどう備え、どのような傘をさすかは、自ら考え、実行することができる。
今日から、自社における「当たり前」のレベルを、もう一段引き上げてみてはどうだろうか。
経営者自らが行動の基準となり、社員とともに、理念を実現するための「最高の傘」をつくり上げていくこと。
変化の激しい時代だからこそ、理念という軸を持ち、柔軟に変化しながら、やるべきことを徹底する。その積み重ねが、企業の成長と持続的な発展を支えるのである。
経営者の皆様が、当たり前の先にある真理をつかみ、自社の輝かしい成長を牽引していくことを期待したい。



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