【代表メッセージ】人的資本経営と副業は両立するのか【理念経営No.52】
- 西里喜明

- 6月9日
- 読了時間: 3分
~人材への投資・育成と副業の在り方を考える~

近年、「人的資本経営」という言葉を耳にする機会が増えた。一方で、副業・兼業を推進する企業も増えている。
しかし、ここで一つの疑問が生じる。
「社員の成長を自社で支援する人的資本経営」と、「社員が社外で働く副業」は本当に両立するのだろうか。
人的資本経営を推進しながら副業も認める。その二つは矛盾しないのだろうか。
まず、人的資本経営について整理したい。
経済産業省は人的資本経営を、「人材をコストではなく価値を生み出す資本として捉え、その能力やエンゲージメントを高める投資を行い、中長期的な企業価値向上につなげる経営」と定義している。
その実践にあたっては、主に次の三つの視点が重要とされている。
① 経営戦略と人材戦略の連動
② 現状と理想とのギャップ把握
③ 企業文化への定着
つまり、企業が目指す方向性と人材育成を一体で考え、人材への投資を通じて企業価値を高めていく考え方である。
一方、副業についてはどうだろうか。
副業には法律上の明確な定義はないが、一般的には本業以外で収入を得る活動を指す。近年は働き方改革の流れもあり、政府も副業・兼業を後押ししている。
総務省は、副業・兼業について「個人のスキルを活かした地域貢献や課題解決につながる活動」として期待を寄せている。
しかし現実を見ると、副業の目的は必ずしもそうした理想的なものばかりではない。
物価上昇や生活費負担の増加を背景に、収入補填を目的としたダブルワークも少なくない。
もちろん生活を支えるための副業を否定するものではない。
ただし、人的資本経営との関係で考えるならば、経営者は「副業をどう位置付けるのか」を明確にしておく必要がある。
人的資本経営の本質は、人材を成長させ、その成長を企業価値向上へ結び付けることにある。
その観点から見ると、副業も単なる収入確保の手段ではなく、「新たな経験」「視野の拡大」「専門性の向上」を実現する機会として活用されることが望ましい。
重要なのは、企業のパーパス(存在意義)や経営理念と、社員個人のキャリア形成の方向性が一致していることである。
企業が目指す未来と社員が目指す成長が同じ方向を向いているとき、副業は人的資本経営を補完する有効な施策となる。
反対に、社員が生活費を補うためだけに副業を行い、本業への意欲やエンゲージメントが低下している状態であれば、人的資本経営との整合性は取りにくくなる。
では、人的資本経営と副業を両立させるために、経営者は何を考えるべきだろうか。
第一に、本業で安心して働ける処遇を整えることである。
社員が生活不安から副業を選ばざるを得ない状況は、決して望ましい状態とは言えない。企業として収益力向上に取り組み、適正な賃金を支払える経営基盤を築くことが重要である。
第二に、経営理念への共感を高めることである。
社員が会社の存在意義や目指す方向性を理解し、自らの成長と重ね合わせることができれば、本業そのものが成長の場となる。
第三に、そのうえで副業を「学びと成長の機会」として位置付けることである。
他社の優れた取り組みを知る。
異なる業界の視点に触れる。
地域課題の解決に関わる。
そうした経験は社員自身の成長だけでなく、最終的には自社への新たな価値還元にもつながる。
副業は決して人的資本経営の敵ではない。
むしろ、経営理念や人材戦略と結び付けて活用すれば、社員の視野を広げ、多様な価値観を組織へ持ち込む有効な人材育成手段となる。
人的資本経営の目的は、人を成長させることではなく、「人の成長を通じて企業を成長させること」にある。
副業もまた、その目的に資する形で活用されるとき、企業と社員の双方にとって大きな価値を生み出すのである。


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