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【代表メッセージ】処世術を超えて「徳」を磨く【人間力向上№57】

執筆者の写真: 西里喜明
西里喜明
5 分前
読了時間: 5分

 

処世術を超えて「徳」を磨く

~得意淡然・失意泰然という身のこなし~


 勝海舟の座右の銘として知られる「得意淡然(とくいたんぜん)、失意泰然(しついたいぜん)」。

 この言葉は、幕末から明治という激動の時代を生き抜き、江戸城無血開城をはじめとする数々の難局を乗り越えた勝海舟ならではの、深くタフな人間性を象徴している。

 この言葉の本質的な意味、そして現代を生きる私たちが「人としての生き方」においてどのようにこの知恵を血肉化していくべきか、その内実を深く掘り下げてみたい。


 この言葉は、元々は中国の古典(明代の学者・崔銑の『六然訓』など)に見られるもので、文字通りには以下のような意味を持っている。


【得意淡然(とくいたいぜん)】

物事が思い通りに進み、絶頂期にあるとき(得意のとき)こそ、驕らず、執着せず、謙虚に、淡々とした態度でいること。


【失意泰然(しついたいぜん)】

失敗し、逆境に陥り、どん底にあるとき(失意のとき)こそ、慌てず、取り乱さず、ゆったりと落ち着いていること。


 人間は良いことがあれば天にも昇るほど喜び、時に傲慢になる時がある。逆に悪いことがあれば世の終わりのように絶望し、周囲を恨んでしまいがちである。

 しかし勝海舟は、そのどちらの極端な状態にあっても、「心の重心」を常に真ん中に保ち続けることの重要性を説いた。

 周囲の状況がどうあれ、自分自身の本質を見失わない。これこそが、激動の時代を生き抜き、真に自立した人間として立つための「心のセーフティネット」であった。



●勝海舟の人生に見る「淡然」と「泰然」

 勝海舟の生涯そのものが、この言葉の最高の体現例である。

 万延元年(1860年)、海舟は咸臨丸の艦長として太平洋を横断し、アメリカへと渡った。

 当時としては前人未到の大偉業であり、帰国後の海舟は一躍、時代の寵児となる。まさに「得意」の絶頂であった。

 しかし、彼はその名声に甘んじることはなかった。

 西洋の圧倒的な科学技術と民主主義を目の当たりにした彼は、個人の名誉に浸る間もなく、日本の近代化という次なる大きな課題へ淡々と目を向け、神戸海軍操練所の設立へと動いた。


 逆に、最大の「失意」とも言える局面が、慶応4年(1868年)の江戸城無血開城の直前である。

 徳川幕府は崩壊寸前、新政府軍が江戸へ進撃し、一歩間違えれば江戸の街は火の海になり、数百万人の命が失われるという極限状態であった。幕府の内部からも、新政府側からも命を狙われる四面楚歌の中、海舟は驚くほどの「泰然」さを見せる。

 西郷隆盛との直談判に臨む際も、彼は取り乱すことなく、大局(日本の未来と民の命)を見据えて極めて冷静に交渉を進めた。この泰然自若とした態度があったからこそ、奇跡的な無血開城が実現したのであろう。



●「人としての生き方」の根幹を成す智慧(ちえ)

 この「得意淡然、失意泰然」という身のこなしは、単なるビジネスの処世術や危機管理のテクニックではない。私たちが一人の人間として、いかに高潔に、そして調和を保って生きるかという「人間性の格」を問うものである。

 人生には必ず昇り坂のときもあれば、下り坂のときもある。その変化に一喜一憂し、環境に振り回されて生きることは、自分の人生の主導権を他者や状況に明け渡していることに等しい。



●成功の罠から身を守る「淡然」

 人間は、物事がうまくいっているときにこそ、その本性が現れる。

 称賛を浴び、富や名声を手にしたとき、人は往々にしてそれを「自分の実力」と錯覚し、傲慢の罠に落ちる。周囲への感謝を忘れ、他者を見下すようになった人間は、たとえ社会的に成功していても、人としての徳を失っている。

 「得意淡然」とは、成功の最中にあっても自らを厳しく律し、謙虚であり続けるという、人間としての高い精神的成熟を求める教えである。人格を高め、人間的魅力を磨くためには是非とも身に付けたい徳である。



●逆境で品格を保つ「泰然」

 一方で、予期せぬ不幸や失敗、他者からの批判に晒されたときにも、人間の真価が試される。絶望に打ちひしがれ、自暴自棄になり、他者を攻撃する姿は、人としての品格を損なってしまう。

 「失意泰然」とは、不運を嘆くのではなく、「これもまた人生の一幕に過ぎない」と腹をくくり、静かに耐え忍ぶ強さを持つことである。嵐が過ぎ去るのをじっと待つその佇まいにこそ、人間の本当の美しさと底力が宿る。これも身に付けたい徳である。



●得意淡然、失意泰然の実践

 私たちが日常生活で「得意淡然、失意泰然」を実践し、人としての生き方を深めていくには、どうすればよいのだろうか。


①自己を客観視する「メタ認知」の視点を持つ

 感情の渦に巻き込まれそうになったとき、一歩引いて自分を観察する習慣をつける。

 「今、自分は過剰に浮ついている」「今、一時的な落胆に囚われている」と、事実をありのままに認識することで、心に静寂を取り戻すことができる。


②変化を受け入れる「諸行無常」の覚悟

 すべての状況は移り変わる。今ある栄光も、今ある苦しみも、永遠には続かない。この世界の普遍的な法則を深く理解していれば、目の前の事象に過剰に反応することなく、常に一定の平穏を保つことが可能となる。


③大局を見据え、自らの「軸」に従う

 勝海舟が「江戸の民の命を救う」という大義のために動いたように、私たちもまた「人としてどうあるべきか」「何のために生きるのか」という揺るぎない軸を持つことが重要である。目先の損得や他人の評価から離れ、自分の内なる良心に従って生きるとき、心には自然と淡然さと泰然さが備わる。


 

 VUCA(変動制、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代といわれる現代においてこそ、泰然自若として得意淡然・失意泰然の人間性を磨き、魅力ある人格を養い社会の安定・発展に寄与する人材として社会を牽引していく人になりたいものである。


株式会社CSDコンサルタンツ

代表取締役 西里 喜明

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